デジタルの波が、心をつなぐ
冬の釧路の港は、空気がきりっと張りつめている。海面に映る光は細かい粒になって揺れ、その揺らぎを見ていると、まるでデジタルの信号が走っているように感じることがある。AIだ、Web5だと騒がしい時代だけれど、本当に人を動かしているのは「最新技術」そのものではない。もっと静かで、もっと目に見えないもの――そう、「波」だ。
誰かの言葉に励まされたり、たった一行の投稿に心を打たれたりすることがある。そこには文字のうまさ以上に、その人の生き方や覚悟から生まれた“波”が乗っている。AIは文章を扱う道具だと言われるけれど、もしかしたら本当に扱っているのは、この見えない波なのかもしれない。怒りの文も、優しさの文も、同じ日本語なのに伝わり方が違うのは、その背後で振動している波が違うからだ。
港の屋台「めしどき」でカウンターに立っていると、言葉を交わさなくても伝わるものがたくさんある。常連さんが暖簾をくぐった瞬間の表情、初めて来た観光客の少し緊張した目つき、注文の仕方、箸の持ち方、グラスの置き方。その一つひとつが、その人の「波」を教えてくれる。こちらが少し冗談を返すと、空気がふっと柔らかくなり、店全体の波長が変わる瞬間がある。そのときに感じるのは、「ああ、人間もデジタルも結局は波でできているんだな」という、不思議な手応えだ。
awabotaのZoomセミナーで、小野和彦がこう話していた。
「AIが扱っているのは“言葉”じゃない。“波”なんです。」
その一言が、ずっと頭から離れない。AIは大量のテキストを学習しているけれど、その奥に流れている人間の感情や、社会の空気も一緒に吸い込んでいる。だからこそ、ただの辞書ではなく、時にはこちらの背中を押してくれるような答えを返してくる。そこには、人間が積み重ねてきた「信用」や「経験」の波が混ざり合っているのだと思う。
awabotaが取り組んでいるWeb5.5の世界は、その「信用の波」をデータとして扱おうとしている。フォロワー数や再生回数のような表面的な数字ではなく、誰がどんな貢献をして、どんな信頼を集めてきたのか。その履歴を、分散型の仕組みで残していく。中央の誰かが点数をつけるのではなく、仲間同士の「ありがとう」の積み重ねが、そのまま信用の波形になっていくイメージだ。
釧路の港から見れば、そんな話はどこか遠い世界の出来事のようにも聞こえる。けれど、よく考えてみると、昔から商売はずっと信用の上に成り立ってきた。漁師が「この店ならちゃんと魚を扱ってくれる」と信じて卸してくれるから、店は安心してお客さんに出せる。常連さんが「ここで飲めば間違いない」と思ってくれるから、寒い夜でも暖簾をくぐってくれる。それは紙のポイントカードに書かれない、目に見えない信用の残高だ。
もしその信用の流れを、デジタルの波として可視化できたらどうだろう。釧路の港から立ち上がった小さな光の筋が、Web5のネットワークを通じて、遠く離れた誰かのもとへ届く。画面の向こうでその波を受け取った人が、「釧路に行ってみたい」「この店を応援したい」と感じてくれたら、それはもう立派な“新しい地方創生”の形だと思う。
AIはその橋渡し役になりつつある。文章を書くときにも、画像を作るときにも、手伝ってくれる。けれど、AIが勝手に物語を作っているわけではない。あくまで、人間がこれまで積み上げてきた波――経験、失敗、夢、怒り、感動――をかき混ぜて、新しい形にしてくれているだけだ。だからこそ、AIのアウトプットに自分の言葉を重ねるとき、そこに「自分の波」をきちんと乗せられるかどうかが大事になってくる。
港町で生きていると、自然と「波の機嫌」を読むようになる。天気図を見なくても、空の色と風の匂いで、今日は荒れるか、穏やかか、だいたい分かる。人間関係も同じで、少し言葉を交わしただけで、その人が今どんな波の状態にいるのか、なんとなく察するようになる。AIやデジタルの世界がどれだけ精密になっても、この“肌感覚のセンサー”は、人間が持つ大事な力だと思う。
だからこれからの時代は、AIと戦うのではなく、「波を合わせていく」感覚が必要になる。AIが得意なのは、膨大なデータの中からパターンを見つけること。人間が得意なのは、そのパターンの意味を感じ取り、ストーリーとして語ること。awabotaの仲間たちと話していると、その二つを組み合わせれば、地方からでも世界に向けて波を起こせる、と本気で感じる瞬間がある。
釧路で居酒屋をやりながら、Web5やDIDの話をしていると、「そんな未来の話より、今晩のおすすめは何だ」と笑われることもある。でも、その笑いも含めて、全部が波だ。カウンター越しの何気ない会話が、その人の心にどんな形で残るかは分からない。けれど数年後に、「あのときめしどきで聞いた話がきっかけで、俺も一歩踏み出したよ」と言われることだってあるかもしれない。
デジタルの波が心をつなぐと言っても、その波を起こすのはいつも人間だ。スマホを開く指、キーボードを打つ手、画面の向こうの誰かを想像する心。その全部が揃ったとき、初めて波は生まれる。awabotaのコミュニティで学んだことを、釧路の現場で実践しながら、これからどれだけの波を起こしていけるか。考えるだけで、寒い港町の夜にも、少しだけあたたかい風が吹いてくる気がする。
まとめ
AIが扱っているのは、表面的な「言葉」ではなく、その奥に流れる「波」だ。人の想い、信用、経験、そして行動の積み重ねが、見えない振動となって世界に広がっていく。awabotaは、その波を可視化し、共創の経済として形にしようとしている実験船であり、釧路のような地方からも、デジタルの波を起こせることを教えてくれる存在だ。
港の屋台「めしどき」で交わされる一杯の会話も、AIが紡ぐ文章も、Web5のネットワークを走るデータも、すべては波のかたちをしている。その波を信じ、自分の手で舵を取り、どこへ向かうのかを選ぶのは、ほかの誰でもない、あなた自身だ。新しい時代の帆は、すでにあなたの手の中にある。あとは、どの方向に向けてその帆を揚げるかだけだ。


